電話のない時代から、スマホとAIの時代まで
60年の軌跡が教えてくれたこと
未来はいつも、想像の斜め上を行く
今、私たちの手の中にはスマートフォンがあります。
顔を見ながら話し、世界中の情報が一瞬で届き、AIと会話までできる時代になりました。
でも、私が子どもの頃。
そんな未来は「想像」ではなく、「夢物語」でした。
今回は、私自身が60年間…もう今年で67歳なので、ほぼ70年間で見てきた通信の進化を振り返りながら、
未来はいつも、私たちの想像を超えてやって来る
ということをお話ししたいと思います。
家には電話がありませんでした
私が子どもの頃、家には電話がありませんでした。
電話をかける時は、集落にある商店さんへ借りに行きます。
逆に電話がかかってくると、
「しげこちゃーん、電話やでー!」
それが当たり前の暮らしでした。
今では考えられない不便さですが、当時は誰も不便だとは思っていませんでした。
それが「普通」だったからです。
電話は、人がつないでいた
昔の電話は、自分で番号を押すものではありませんでした。
黒電話の横にあるハンドルを回して交換局につなぎ、交換手さんに、
「〇〇さんのところへお願いします」
と伝えます。
交換手さんが、たくさんのコードを一本ずつ差し替えて、相手の電話につないでくれていたのです。
電話番号を押せば自動的につながる今から考えると、とても不思議な仕組みです。
けれど、それも当時は当たり前の風景でした。
人間が月へ行った日
1969年7月。
学校の理科室に集まり、白黒テレビで人類初の月面着陸を見ました。
アームストロング船長が月の上に降り立つ、その瞬間。
教室は、しんと静まり返っていました。
「人間が月へ行く」
それだけでも、当時の私にとっては十分すぎるほどの未来でした。
まるでSFの中の出来事を、現実の映像として見ているようでした。
テレビの中に未来がありました
同じ頃、『ウルトラセブン』では、腕時計のような小さな通信機を使って、離れた場所にいる人と顔を見ながら話していました。
当時は、家の電話さえダイヤル式でした。
もちろん、携帯電話などありません。
それなのにテレビの中では、腕につけた小さな機械で、相手の顔を見ながら話をしている。
子どもの私は、
「そんなこと、本当にできるようになるのかな」
と思いながら、ワクワクして画面を見つめていました。
その頃は、現実味のない夢物語にすぎませんでした。
ところが、その夢物語は、何十年後かに本当に現実になってしまったのです。
万博で見た「未来」
1970年。
学校の社会見学で、大阪万博へ行きました。
いろいろなパビリオンで紹介されていたのは、未来の暮らし、未来の通信、未来の乗り物でした。
どこを見ても、未来への夢と希望にあふれていました。
特に印象に残っているのは、アメリカ館で見た大きな携帯電話のような機械です。
「将来は、こんなふうに、どこにいても話ができるようになる」
そう説明されても、当時の私には、ほとんど想像がつきませんでした。
それでも、
未来は、もうすぐそこまで来ている
日本中が、未来を信じていた頃
あの頃は、電話もテレビも、まだ特別なものでした。
少し色がついただけで、
「カラーになった!」
と喜ぶことができました。
本物でなくても、少し未来らしく見えるだけで、子どもも大人もワクワクしました。
未来はきっと、もっと便利で、もっと楽しくなる。
社会全体が、そんな期待を共有していた時代だったのだと思います。
本当に電話を持ち歩く時代が来た
30代になり、新聞配達をしていた頃、私は初めて携帯電話を契約しました。
黒くて大きく、今のスマートフォンより、ずっと重たい携帯電話でした。
配達に出る前に、新聞販売店の電話を自分の携帯電話へ転送しておく。
すると、バイクで配達している途中でも、仕事の電話を受けることができました。
家でもなく、店でもない場所で電話がつながる。
子どもの頃、商店まで電話を借りに行っていた私には、それはまるで未来の出来事でした。
数字だけで気持ちを伝えた時代
1990年代半ばには、ポケベルが流行しました。
画面に届くのは、短い数字だけです。
それでも、数字の語呂合わせを使って気持ちを伝えました。
0840 = おはよう
14106 = 愛してる
724106 = なにしてる?
4649 = よろしく
今思えば、とても不便な通信手段です。
けれど、秘密の暗号を送り合っているようで、それがすごく楽しかった。
数字が届くだけで、うれしくなる。
不便さの中にも、工夫する面白さや、待つ時間のときめきがありました。
父が買ってくれた、オレンジ色のiMac
1998年頃、父がオレンジ色のiMacを買ってくれました。
初めて自分のパソコンが家にやってきたのです。
丸くてかわいらしいデザインで、未来の道具のように見えました。
インターネットには、電話回線を使って接続しました。
ピー、ヒョロロロロ……
モデムの音を聞きながら、インターネットにつながるのを待ちます。
接続している時間が長くなるほど、電話料金も高くなりました。
しかも、インターネットを使っている間は、家の電話が使えません。
だから、気軽に長時間使うことはできませんでした。
家の中に、世界が入ってきた
しばらくして、水色のシェル型iBookを買いました。
丸い貝殻のようなデザインで、持ち運べるパソコン。
なんだか、未来そのものを持ち歩いているようで、ワクワクしました。
ホームページを見る。
メールを送る。
電車の時刻や乗り換えを調べる。
天気予報を見る。
今では当たり前のことですが、家にいながら遠くの情報を得られることが、本当に不思議でした。
外へ行かなければ得られなかった情報が、家の中へ届くようになった。
暮らし方も、人とのつながり方も、少しずつ変わっていきました。
そして、選択肢が増えていった
パソコンが身近になるにつれ、機種も増えていきました。
デザインのかわいいMacを使いたい。
けれど、仕事ではWindowsも必要になる。
新しいものが生まれるたびに、便利になる一方で、
「どれを選べばいいのだろう」
と迷うことも増えていきました。
未来は、ただ便利になるだけではなく、私たちに新しい選択を求めるものでもあったのだと思います。
家の中で完結できることが増えた
電話を借りるために商店まで歩いた時代。
電話がかかってくると、近所の人が呼びに来てくれた時代。
子どもたちが外で遊ぶのが当たり前だった時代。
そこから、電話が家に入り、テレビが家に入り、インターネットが家に入りました。
外へ出なくても、情報や楽しみを得られるようになりました。
とても便利になった一方で、近所の人と顔を合わせる機会は、少しずつ減っていったようにも思います。
技術の進歩は、道具だけではなく、人と人との関わり方も変えていったのです。
そして今、夢物語は日常になった
今では、スマートフォン一台で、電話も、買い物も、動画も、銀行の手続きもできます。
遠くにいる人と、顔を見ながら話すこともできます。
腕時計型の機械で通話したり、メッセージを受け取ったりすることもできます。
さらに、AIと話し、文章を書いてもらい、画像まで作れる時代になりました。
子どもの頃の私が今の暮らしを見たら、きっと驚くと思います。
『ウルトラセブン』の中だけにあると思っていた未来が、いつの間にか、私たちのポケットや腕の中に収まっています。
そして私たちは、それを特別なことではなく、当たり前の日常として使っています。
15年後の未来を、今の価値観で決めつけない
私たちは今、一生懸命に未来を予測しようとします。
この先、世の中はどうなるのだろう。
仕事はどうなるのだろう。
AIによって、暮らしはどう変わるのだろう。
先が見えないと、不安になります。
でも、少し考えてみてください。
黒電話しかなかった時代に、誰が今のスマートフォンやAIの時代を正確に予測できたでしょうか。
当時の私たちには、「顔を見ながら、どこからでも話せる」という未来さえ、現実味のない夢物語でした。
それが今では、誰もが当たり前のように使っています。
そう考えると、今の私たちが抱えている、
「この先は、どうなるんだろう」
という不安も、15年後には、想像もできない新しい変化によって、よい意味で裏切られているのかもしれません。
未来は、いつも想像の斜め上を行く
電話のない時代。
交換手さんが、人の手で電話をつないでいた時代。
白黒テレビの時代。
万博で未来に胸を躍らせた時代。
ポケベル。
携帯電話。
インターネット。
スマートフォン。
そして、AI。
振り返ってみると、未来は一度も、私の予想どおりには進みませんでした。
いつも、今の私たちの想像を、軽々と飛び越えてきました。
電話のない時代から、AIの時代まで見てきた私が思うこと
未来は、私たちが今の物差しで測るより、
ずっと面白い。
今の価値観だけで、
「もう、この先はダメだ」
と決めつける必要はありません。
かつて夢物語だと思っていたことが現実になったように、これから先にも、私たちの想像を軽々と超える世界が待っているはずです。
だから、不安に足を止めるのではなく、行けるところまで行ってみたいと思います。
その先に、どんな驚きが待っているのか。
どんな新しい世界を見ることができるのか。
想像の斜め上を行く未来を、
これからも見届けていきたいと思います。
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