心のしくみを、少し違う角度から考えてみる
自己否定にはメリットがあるんじゃないか?
という仮説を立てました
「自己否定は、やめたほうがいい」
そんな言葉を、私たちは何度も耳にします。
自分を認めましょう。
自分を好きになりましょう。
もっと自信を持ちましょう。
たしかに、それができれば、今より少し楽に生きられるのかもしれません。
けれども、それでも自己否定をやめられない人がいます。
「どうせ私なんて」
「私には無理」
「私がやってもうまくいかない」
そう思うたびに苦しくなると分かっているのに、何度も同じ場所へ戻ってしまう。
それは、意志が弱いからなのでしょうか。
努力が足りないからなのでしょうか。
私は、そうではないと思うんです。
自己否定によって、守られているものがある。
自己否定によって、維持されている人間関係や生き方がある。
もし自己否定が、ただ自分を苦しめるだけのものなら、私たちはこれほど頑なに、それを持ち続けるでしょうか。
もしかすると自己否定には、私たちが思っている以上に、大切な役割があるのかもしれません。
自己否定が持つ、4つの役割
1.他人から傷つけられる前に、自分で自分を傷つけておく
「私はダメだから」
そう思っていれば、誰かに否定されたときも、「やっぱりそうだよね」と受け止めることができます。
もちろん、本当は傷ついています。
けれども、何も知らずに突然否定されるよりも、先に自分で覚悟しておいたほうが、衝撃を小さくできるような気がするんです。
自己否定は、自分をいじめるためだけにあるのではなく、他人から受ける傷を少しでも軽くしようとする、防御の役割を持つことがあります。
2.期待されずに済む
期待されることは、うれしいことばかりではありません。
期待されれば、応えなければならない。
失敗できなくなる。
責任を背負うことになる。
だから、「私には無理です」と言っていたほうが安心できることがあります。
できない人でいれば、大きな役割を任されずに済みます。失敗して誰かをがっかりさせる怖さからも、少し距離を置くことができます。
それは、単なる怠けではありません。
期待に応えられなかったときの痛みを知っているからこそ、期待されない場所に自分を置こうとしているのかもしれません。
3.人生を今のままにしておける
もし今日、心の底から、
「私は、私の人生を生きていい」
と思えたとしたら、何かが変わり始めるかもしれません。
嫌なことを断るかもしれない。
挑戦してみるかもしれない。
誰かとの関係を見直すかもしれない。
新しい場所へ一歩踏み出すかもしれない。
一見すると、それは輝かしい未来のように見えます。
けれども、変化には必ず不安がついてきます。
自分で選ぶこと。
自分で決めること。
その結果を、自分の人生として引き受けること。
「私には無理」と言っている限り、今の場所にとどまることができます。
自己否定は、苦しい一方で、人生を動かさずに済ませるブレーキにもなっているのです。
4.世界を一つの答えで説明できる
物事がうまくいかない理由は、本当は一つではありません。
準備が足りなかったのかもしれない。
タイミングが合わなかったのかもしれない。
相手にも事情があったのかもしれない。
そもそも、自分には合わない場所だったのかもしれない。
けれども、それらを一つひとつ考えるのは、とても複雑です。
そんなとき、
「全部、私が悪い」
と考えれば、理由は一つで済みます。
もちろん、その答えは自分を苦しめます。
それでも、理由が分からないままでいるより、「私が悪い」と決めてしまったほうが、世界が分かったような気がすることがあるんです。
ここで、一つ考えてみてほしいことがあります。
自己否定をやめたら、
あなたは何を失うと思っていますか?
自己否定をやめたら、自信がつく。
前向きになれる。
人生がうまくいく。
多くの人は、得られるものを思い浮かべます。
けれども、心の深いところでは、何かを失うと思っているのかもしれません。
世話をしてもらえる立場。
誰かが代わりに決めてくれる安心。
「できない人」でいることを許される場所。
責任を引き受けなくていい生き方。
「私にはできない」と言っていれば、誰かがやってくれていた。
「どうせ私なんて」と言っていれば、誰かが心配してくれた。
自分を否定することで、誰かとのつながりが保たれていたとしたら、自己否定を手放すことは、その関係まで失うように感じられるかもしれません。
だから、怖いんです。
自己否定をやめることが怖いのではなく、自己否定をやめたあとに、自分がどのように生きればいいのか分からない。
もう甘えられなくなる。
もう助けてもらえなくなる。
自分で全部やらなければならなくなる。
そんな世界が始まるように感じているのかもしれません。
自立することは、誰にも頼らないことではありません
ここで、自立という言葉を少し考えてみたいと思います。
自立というと、「一人で何でもできること」「誰にも迷惑をかけないこと」と思われがちです。
でも、本当の自立は、何もかも一人で背負うことではありません。
自分でできることは、自分でやってみる。
自分で決めるべきことは、自分で決める。
そして、本当に助けが必要なときには、自分から「助けてください」と伝える。
「できないから、誰かにやってもらう」のではなく、
「自分の人生として引き受けながら、必要なところでは人の力も借りる」
そこには、依存とは違う人とのつながりがあります。
自立と依存は、単純な反対語ではありません。
依存から少しずつ自立へ進み、やがて、互いに助け合える関係へ移っていく。
自己否定を手放すということは、誰にも頼らない人になることではなく、頼り方を変えていくことなのかもしれません。
自己否定を責める前に、問いかけてみてください。
この自己否定は、私を何から守ってきたのだろう。
この自己否定によって、どんな関係を維持してきたのだろう。
そして、自己否定をやめたら、私は何を失うと思っているのだろう。
答えがすぐに見つからなくても大丈夫です。
自己否定は、長い間あなたを苦しめてきたものかもしれません。
けれども同時に、傷つかないように、見捨てられないように、何とか今の人生を守ろうとしてきた方法でもあったのかもしれません。
だから、無理やり追い出そうとしなくてもいいと思うんです。
まずは、その役割に気づくこと。
そして、もうその方法を使わなくても、自分を守れるかもしれないと知ること。
そのとき、自己否定は少しずつ役目を終えていくのではないでしょうか。
自己否定を手放すことは、ただ前向きになることではありません。
それによって維持されてきた生き方を見直し、自分の人生を、自分の手に少しずつ取り戻していくことなのだと思います。
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