心理ブログ
母からの着信音が鳴ると、
なぜあんなに苦しくなるのだろう

先日、何気なくショート動画を見ていたんです。 ある男性が、お母さんから何度も電話がかかってくる様子を投稿していました。 お母さんは施設に入っていて、
「迎えに来て」
「帰りたい」
「今どこ?」
動画の中では、スマホが鳴るたびに、男性が困ったような返事をしていました。
その電話は、私にかかってきているわけではありません。
その男性のお母さんの話です。
それなのに、着信音が鳴るたびに、私までドキッとしているんです。
胸のあたりがザワッとして、 「ああ……」 という、何とも言えない気持ちになる。
動画についたコメント欄を開いてみました。 すると、
「わかります」
「私も同じです」
「着信音が鳴るだけで動悸がします」
「親からの電話が怖いです」
その時に思ったんです。 ああ、これ、私だけじゃなかったんだなって。
今の私は、母が施設に入っているので、母本人から電話がかかってくることはほとんどありません。
でも、施設から電話がかかってくると、やっぱりドキッとします。
もちろん、それは心配だからです。
何かあったのかな。
体調が悪いのかな。
でも今回感じたのは、それとは少し違う感覚でした。
もっと昔。
母が元気だった頃のことです。
母から電話がかかってくる。
ただそれだけなのに、ものすごく気力や体力を持っていかれるような感覚があったんです。
電話が鳴った瞬間に、
胸がギュッとなる。
身体が固まる。
深いため息が出る。
まだ何も話していないのに、もう疲れている。
そう考えていた時に、ふと思い出したんです。
昔、私は母専用の着信音を設定していました。
井上陽水さんの『青春時代』です。
なぜその曲にしたのかは、正直よく覚えていません。
でも不思議なことに、今でもその曲を耳にすると、少しゾクッとするんです。
曲が嫌いになったわけではありません。
むしろ良い曲だと思います。 なのに、身体が反応する。
たぶんその曲に、母からの着信という体験が結びついてしまったんでしょうね。
そこで思ったんです。
これは、地震の緊急アラートと少し似ているのかもしれない、と。
あの音を聞くと、多くの人がドキッとします。
でも考えてみると、音そのものが怖いわけではありません。
その音の先に、
「大変なことが起きるかもしれない」
という意味が結びついているんです。だから身体が反応する。
親からの着信音も、同じなのかもしれません。
電話の向こうで何が起きるかわからない。
愚痴かもしれない。
頼み事かもしれない。
心配事かもしれない。
何かを背負わされるかもしれない。

ただ、ここで少し不思議なのは、私は子どもの頃から母が重荷だったという感覚はあまりないんです。
もちろん、色々ありました。
でも「母が嫌だった」「母が怖かった」という単純な話でもないんです。
むしろ、大人になってからの方が、親との関係は複雑になるのかもしれません。
親が年を取り、心配事が増え、相談事が増え、頼られることが増える。
いつの間にか、受け取る側だったはずの子どもが、支える側になっていく。
そうして積み重なったものが、ある日、着信音にまで染み込んでいくのかもしれません。
親からの電話が鳴るだけで苦しくなる。
胸がざわつく。
気力が奪われる。
そんな経験があるなら、それは冷たいからでも、親不孝だからでもないんだと思うんです。
私自身、なぜあの『青春時代』の着信音だけが、あんなに身体を震わせたのか、まだ全部はわかっていません。
でも今は、こう思えるんです。
あの反応は、私が母を大切に思ってきたことの裏側でもあり、同時に「全部は背負いきれないよ」と、身体が私より先に教えてくれていたサインでもあったんだろうな、と。
だからもし今、親からの着信音にザワッとしている方がいたら、どうかその反応を責めないでほしいんです。
それは、あなたが冷たいから…とか、そういうんじゃないと思います。
それだけ長い間、相手の気持ちを受け止めようとしてきたということなんです。
そして、その全部を背負わなくてもいいんじゃないかなと思うんです。
今日は応えられても、明日は応えられない日がある。
優しくできる日もあれば、しんどくて距離を取りたい日もある。
それでいいんだと思うんです。
全部か、ゼロか、ではなくて。
ちょっとだけ応えて、ちょっとだけ離れる。
その間を行ったり来たりしながら、自分の人生も大切にしていく。
それは親を見捨てることではなく、自分も相手も長く大切にしていくための方法なのかもしれません。
母からの着信音に、あんなにも心が揺れたのは。
そこに愛がなかったからではなく、きっと愛があったからなんだと思います。
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