恵まれているはずなのに、どうしてこんなに苦しいの

恵まれているはずなのに、
どうしてこんなに苦しいの

「なんで、こんなに苦しいのか、自分でもわからないんです」

最初に来られた時、相談者の方はそう言いました。(了承を得てお話します)
三十代の前半。仕事もきちんとされていて、身なりも整っていて、話し方も丁寧。

「私、人からよく言われるんです。
自分でいうのも…変なんですが…
ちゃんとお育ちになられて、苦労してませんよねって。
だから、苦しいって言うのも、なんだか申し訳ないというか…
贅沢なんじゃないかって思って、なかなか相談できなかったんですが…」

それでも、人が怖い。
深く関わろうとすると、緊張してしまう。
自分の気持ちを話そうとすると、後で「あんなこと言わなきゃよかった」って何度も思い返してしまう。
何より
自分に価値があるとは、どうしても思えない。

「普通の家族なんです。
特に問題もなくて。
お兄ちゃんもみんなに人気があって素敵で、両親もすごく優しくて。
何の問題もないように、私は思います。
けど、なぜか私は、自信が持てなくて。
人と接するときに緊張してしまうんですよね。」

✿ ✿ ✿

「ちゃんと育ててもらったのに、こんなんじゃ駄目」

この言葉を聞いたとき、「あ!」って思いました。

苦しさの原因を、最初から自分の方に向けてるんですよね。
ちゃんと育ててもらえたのは家族のおかげ。
『駄目なのは自分』というセットが、もう本人の中で固まっている。

こういう方は、本当に多いんです。
そして、こういう方ほど、長い間ずっと一人で抱えてきていることが多いんですよね。

なぜかというと、苦しさの原因を全部自分に向けているから、誰にも相談できないんです。「家族はいい人だから、家族のことで苦しいなんて言えない」
「私が駄目なだけだから、人に話しても仕方ない」って、
自分の中で完結してしまう。
だから誰にも見つけてもらえないまま、何年も、その苦しさを抱え続けてしまうんです。

✿ ✿ ✿

人って、自分が育った環境のことを「普通」だと思って大人になるんですよね。

たとえば、家族で一緒にご飯を食べる時、テレビがついていて誰も話さない家もあれば、毎日その日あったことを順番に話す家もある。
子どもが泣いた時、すぐに抱きしめてくれる家もあれば、「そんなことで泣くな」と返ってくる家もある。
どの家にも、その家なりの「当たり前」があって、その中で育った子どもは、それを「普通のこと」として受け取ります。

だから、大人になってから「自分の家、ちょっと変わってたかも」って気づくことって、実はとても難しいんです。
比べる相手がいないから。生まれた時からそうだったから。

そして時々、外から見たら「え、それはちょっときついんじゃない?」って思われるようなことが、その人の「普通」の中にしれっと含まれていたりするんです。

本人は気づいていない。
家族も、悪気はない。
でも、子どもの中で、何かが起きているんです。

✿ ✿ ✿

子供時代のこと、家族のこと、何が好きで何が嫌だったか。
最初は「特に話すこともないんですけど」と言っていたのが、だんだん、ぽつりぽつりと話してくれるようになりました。

そして、ある時、ぽつっとこぼされたんです。

「この前、職場で、同僚がすごく嬉しそうに何かを話してたんですけど
私、それを聞いて、ちょっと羨ましいなって思っちゃったんです。
それで、その後ずっと、自分が嫌で」

「ちょっと羨ましいなって、思った自分が嫌だったんですか?」

「だって、私、その同僚のこと好きなんですよ。
仲良くしてもらってるし、いい人だし。
なのに、その人の幸せを聞いて、素直に『よかったね』だけじゃなくて、『いいな』って思っちゃう自分が、すごく嫌で」

「えっ、それって、普通の感情じゃないですか?」

「……普通、ですか?」

「友達の幸せな話を聞いて、『よかったね』って気持ちと、『いいな、羨ましい』って気持ちが、両方ぽっと出てくるのって、人間としてごく自然なことだと思うんですけど」

「でも、私、その人のことは大好きなんですよ。それなのに、そんなふうに思っちゃうのは、なんだか、その人を裏切ってるみたいで。うらやましいっていうより《嫉妬》に近かったかもしれません」

ここですよね、と思いました。

✿ ✿ ✿

その方の中で起きていたのは、「自分はダメだ」っていう単純な自己否定じゃなかったんです。

「これだけ恵まれてるのに」「こんなにいい人たちに囲まれてるのに」「こんなに大事にしてもらってるのに」そんな自分が、ネガティブな感情を持つなんて、この人たちを裏切ってるみたいだ

っていう、家族や周りの人への罪悪感だったんですよね。

愛情があるからこそ、自分のネガティブな部分を許せない。
優しくしてもらった分、自分も優しい人間でいなきゃいけない。
こんなにいい人たちと一緒にいるのに、自分の中に汚いものがあったら、その人たちに失礼。

そういう感覚で、ずっと自分のネガティブを締め出してきたんです。

✿ ✿ ✿

話を聞いていくうちに、お兄さんの話も出てきました。

「兄が、二つ上にいるんです。本当にすごい人で、優しくて、何でもできて、人気者で。私、ずっとお兄ちゃんのこと尊敬してて、今でもそうなんです。だから、私もちゃんとした人間でいなきゃって、どこかで思ってたかもしれません」

これも、一つのきっかけだったんでしょうね。

ただ、お兄さんとの比較が原因、というわけじゃないと思うんです。
お兄さんがいなくても、両親が優しいだけでも、家族みんながいい人っていうだけでも、同じことは起きる。

「立派な人たちに囲まれている自分は、立派な人間でいなきゃいけない」
「優しい人たちといるんだから、自分も優しくあらねば」
「何の不自由もないんだから、不満を持っちゃいけない」
そういう小さな「ねばならない」が、いつのまにか、自分の中の人間らしい感情を全部押し込めるようになっていく。

✿ ✿ ✿

ここで、ちょっと心理学のお話をしますね。

ユングという心理学者が、「シャドウ(影)」という考え方を残しています。

人間って、誰でも心の中に、いろんな部分を持っているんですよね。優しい部分も、ちょっと意地悪な部分も。素直な部分も、嫉妬する部分も。穏やかな部分も、イライラする部分も。それは人間として、ごく自然なこと。

でも、その中で「これは、自分にあってはいけないもの」って判定したものは、自分の意識の奥に押し込められていく。その押し込められた部分のことを、ユングは「シャドウ(影)」と呼びました。

シャドウは、消えないんですよ。押し込めても、心の奥でずっと生きている。そして、押し込めれば押し込めるほど、シャドウが刺激される場面に出会った時、すごく強い反応
罪悪感とか、自己嫌悪とか、不快感が出るようになっていくんです。

清廉潔白でいようとする人ほど、シャドウが大きくなる。
そして、シャドウが大きくなるほど、自分の中に「汚い」と感じる部分が増えていく。
結果として、自分のことが、どんどん嫌いになっていく…

これが、心の中で起きていることなんですよね。

✿ ✿ ✿

その方は、ずっと「清廉潔白でいなきゃ」って、自分に課してきた人でした。

恵まれているんだから、文句を言っちゃいけない。
優しくしてもらってるんだから、ネガティブなことを思っちゃいけない。
立派な家族の中にいるんだから、自分も立派でいなきゃいけない。
…たぶん、本人もそうとは自覚せず、毎日小さく自分にそう言い聞かせてきた。

だから、ちょっと友達に嫉妬したくらいで、自分のことを「裏切り者」みたいに感じてしまう。
ちょっと家族にイライラしたくらいで、「こんな自分はいけない」って強く責めてしまう。
日常に普通に湧いてくる感情の、ほんの一かけらも、許せない。

これは、苦しいですよね。

人間として自然なものを、ぜんぶ「あってはいけない」と扱ってきたら、そりゃ生きるのがしんどくなります。
だって、半分自分を否定しながら生きてるみたいなものだから。

✿ ✿ ✿

ここで、その方に話してみました。

「世の中、いろんな人がいるじゃないですか。職場でも、噂話してる人がいたり、ゴシップを嬉しそうに語ってる人がいたり。私もね、そういうのは、正直、あんまり好きじゃないんですよ」

「あ、はい」

「だけど、その人たちは、それでストレスを発散してたりするんですよね。私とは違うやり方だけど、その人にとっては必要なやり方だったりする。だから、『自分は違うけど、その人はそうなんだな』って、ちょっと距離を置いて見るくらいでいいかなって思ってるんです」

「全部を否定する…全部を肯定しなくても良い…自分は違うけど、その人はそうなんだと思う…」

「そう。全部否定して、嫌悪して、自分は違うって線を引くと、世の中、しんどくなるんですよね。人付き合いも、職場も。だって、清廉潔白な人ばっかりじゃないから、世の中って」

その方は、少し考えて、言いました。

「それって、自分の中に対しても同じ、ですか?」

「あ、それです」

自分の中にも、いろんな感情が湧いてくる。
羨ましいって思ったり、イライラしたり、ちょっと意地悪な気持ちが浮かんだり。
それを全部「あってはいけない」って嫌悪すると、自分の中もしんどくなる。

だから、「あ、そういう自分もいるんだな」って、ちょっと距離を置いて見るくらいでいい
全部受け入れる必要もないし、好きになる必要もない。
ただ、「いるんだな」って認めるだけ。

「全部受け入れなくていいんですか?」

「いいんですよ。だって、自分の中の意地悪な部分とか、ぜんぶ大好きにならなくていいじゃないですか。ただ、『あるな』って認めるだけ。それくらいの距離感の方が、楽じゃないかなって思うんです」

✿ ✿ ✿

その方は、少し黙ってから、こう言いました。

「私、ずっと、自分の中のそういう感情を、見なかったことにしてきた気がします。見たら、自分が嫌になるから。でも、見なかったことにしても、消えてはくれなくて。だから、ずっと、なんか自分のことが好きになれなかったのかもしれません」

「見なかったことにしても、消えないんですよね」

「はい。消えてないです、ぜんぶ」

「だったら、これからは、『あ、そういう自分もいるな』って、ちょっと距離を置いて見るくらいで、いいんじゃないかなって思います。
ぜんぶ受け入れなくても、ぜんぶ好きにならなくても。
ただ、『いるな』って認めるだけで、ずいぶん楽になるはずなので」

これを読んでくださっている、あなたへ

もし、自分のことがあまり好きになれないのなら、
もしかして…清廉潔白な自分でいなきゃいけないって、どこかで思っていませんか?

恵まれてるんだから、不満を持っちゃいけない。
優しくしてもらってるんだから、ネガティブなことを思っちゃいけない。
立派な人たちといるんだから、自分も立派でいなきゃいけない。
そんなふうに、自分に課してきていませんか?

人間って、誰でも、いろんな感情を持っているんですよね。
羨ましいって思う時もあれば、ちょっと意地悪な気持ちが浮かぶ時もある。
家族にイライラする時もあれば、誰かの不幸にちょっとほっとしてしまう時もある。
それは、人として、ごく自然なこと。あなただけじゃないんです。

ただ、その自然なものを「あってはいけない」と全部嫌悪すると、自分の半分を否定しながら生きることになる。それは、すごく生きにくいんです。

世の中にも、いろんな人がいます。
噂話する人もいるし、ゴシップが好きな人もいる。
ちょっときつい言い方をする人もいれば、なんだかなあ…って思う事ってあるじゃないですか。
それがいいとか、悪いとかは置いといて。
それを全部嫌うんじゃなくて、
「自分は違うけど、その人はそうなんだな」って距離感で見る。

同じことが、自分の中にも言えるんですよね。
自分の中のネガティブな部分を、全部受け入れなくていい。
ぜんぶ好きにならなくていい。
ただ、「あ、そういう自分もいるな」って、ちょっと距離を置いて認めるだけ。

それだけで、ずいぶん、生きやすくなると思うんです。

これは余談っぽいんですけど、この方のご家族さんも、それなりにネガティブなことを思っていたかもしれないんですよ。
だけど、彼女は… 私の家族は素晴らしくあってほしい そういう目で見ていたのかも…って。
思ってみたりしています…。
子どもにとって、家族って世界そのものだから、どうしても家族を理想化するっていうことがあるんですよね。
そして、その「理想化したいい家族の物語」を、ずっと生きてきた。
だから、今さら、その家族の悪い部分を考えるなんて、できないんじゃないかなって思うんです。
でも、ふと
「見てこなかった部分かもしれないけど、もうちょっと見てみようよ」
心の中の、そんな小さなお知らせが、今回の相談につながったのかもしれませんね。
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心から応援しています。
I support you wholeheartedly.

#生きとし生けるものが幸せでありますように
#May all living things be happy!


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