第1幕:夕暮れの教室と、4人の不安レポート

夕暮れが迫る教室。
窓の外には、茜色に染まりはじめた空が広がっていた。

今日の講義は「安心感の心理学」
IMG_4848

黒板にはまだ、その文字が残されている。
学生たちは次々に教室を後にしていったが、最後まで席を立たなかった4人がいた。
ヌーラ、カエル、ヴェント、ペトラ──。


これは、彼らが互いにつけた愛称だった。
誰かが冗談半分に呼び始めたその呼び名は、いつの間にか自然と定着していた。

ヌーラ(雲)は、周囲に合わせて形を変え、場の空気にすっと馴染むような柔らかさを持っていた。
IMG_4732

カエル(火)は、動いているときこそが生きている証のように、情熱的で止まることを恐れていた。
IMG_4735

ヴェント(風)は、人との間にちょうどいい距離を取りながら、静かに世界を眺める観察者。
IMG_4738

ペトラ(石)は、自分に厳しく、揺るぎない“正しさ”を抱えながら、ひとり静かに踏ん張っていた。
IMG_4740

石と炎と風と雲。
どこかちぐはぐで、それでもなぜか調和していた4人だった。


彼らはそれぞれ、心の中に“引っかかる何か”を抱えたまま、ノートを開いたまま、教室に残っていた。

ヌーラ(雲)が口を開く。
「教授、“安心って自分の中にあるもの”って言ってたけど……。
それが一番、難しくない?」

その言葉に呼応するように、他の3人も静かにうなずいた。

カエル(火)がぼそりと漏らす。
「俺、動いてないとダメなんだよな。止まると怖くなる。置いてかれそうでさ」

ヴェント(風)は目を伏せてつぶやいた。
「私は逆。動いてる人を見ると、なんか……疲れちゃう。“そこまでしなくても”って思う。
でも…私がただ他人に興味がないだけかもしれない」

ペトラ(石)は、しばらく黙ったあと、小さな声で言った。
「私は……ちゃんとしてないと、居場所がない気がする。
自分の中の“ダメ出し”が止まらなくて……」

4人の言葉は、まるで講義の続きをつむぐようだった。
みんな、安心したいと思っている。
だけど、その思いはバラバラで、それぞれが“自分のクセ”の中でもがいていた。

ヌーラが言う。
「ねえ、これってやっぱり、“自分なりの不安のクセ”ってあるんじゃないかな」

カエルがうなずく。
「俺は“動いてないと安心できない”って思ってるし、ペトラは“ちゃんとしてないと不安”だし。
ヴェントは“人との距離”が安心なんだよな。
で、ヌーラは……?」

「私は……誰かに合わせてると、安心してる“気がする”。
でも、終わったあとすごく疲れてる。
つまり、本当は安心じゃないんだよね」

沈黙のあと、ペトラがそっと言った。
「じゃあ……私たち、自分たちだけじゃ分からないなら、教授に聞きに行こうよ。
どうして自分たちはこうなんだろうって」

「いいね。でも……その前に。自分たちの不安、ちゃんと言葉にしてみない?」
と、ヴェントが提案した。

「教授に聞くってことは、自分のクセを知るってことでもあるもんね」
ヌーラがうなずきながら言う。

「よし、それぞれの“取り扱い説明書”を、レポートにまとめよう。
“自分の不安って、どういうものか”って、自分が感じた『不安に名前』を付けようじゃないか?」

「いいね、不安の感じは自分にしかわからないところがあるものね?名前を付けるって、他の人にもイメージしやすいものね」

彼らはそれぞれ、ノートを開き、自分の中にある不安と向き合い始めた──。

IMG_4854



◆ ヌーラ(雲):周囲に溶け込むことで漂う不安

「私の不安」
私は、人に嫌われること、一人になることが不安です。
だから、人の意見に合わせたり、空気を読んだりしてしまいます。
その瞬間は安心するけれど、後でひどく疲れて、自分の気持ちが分からなくなります。
他人からもらう安心が切れた時に、一気に不安が押し寄せるのを感じます。

◆ カエル(火):動き続けることで燃え上がる不安

「私の不安」
止まっていると、なんか怖くなるんです。
置いていかれるような気がして。
だから、常に何かしていないと落ち着かなくて。
周りの人がどんどん先に行ってるように感じて焦ります。
休んでいると、自分だけがダメな人に思えてくるんです。

◆ ヴェント(風):距離を置くことで感じる静寂な不安

「私の不安」
人が頑張っている姿を見ると、少し遠ざけたくなるんです。
何かを証明しようとしてるように見えて、苦しくなる。
私は人との距離を取ることで安心しているけど、それは同時に孤独でもあります。
もしかしたら、私は本当は他人に興味がないんじゃないか、って不安になる時もあります。

◆ ペトラ(石):「ダメ出し」が止まらない自己否定の不安

「私の不安」
私は、“ちゃんとしてないといけない”って思いすぎてしまうところがあります。
少しのミスでも、自分を責めてしまいます。
いつも自分の中に“ダメ出しの声”があって、それに従わないと、居場所がなくなるような不安を感じるんです。


彼らは、それぞれの不安を『名前を付ける』ことでより自覚した。
それは、恥ずかしさも伴う作業だったけれど、
「ちゃんと知りたい」という気持ちが、それを上回った。

ノートを閉じたとき、空はすっかり夕暮れに染まっていた。

四人はお互いの目を合わせ意思を固めた表情で、教授のもとへ向かおうとしていた。
それぞれの不安の答えを、少しでも探すために──。

第2幕:教授の部屋で〜君の不安には名前がある〜

薄暗くなったキャンパスの廊下を、4人は並んで歩いていた。
FullSizeRender

「ほんとに行くの、緊張するな……」とカエルが漏らすと、
「もう、補講の予約は取ったから…

教授、たまに冗談も言うし、怖くないよ」とヴェントが笑った。

彼らが向かったのは、心理学棟の一番奥にある、小さな部屋だった。
扉の前に掲げられた名札には、こう書かれている。

“心理構造論 特任教授室”
扉をノックすると、中から穏やかな声が返ってきた。 「どうぞ、入ってください」
IMG_4856

部屋の中は静かで、本の匂いが少しだけ漂っていた。
机には一杯のコーヒーと、開いたままのノートが置かれている。
教授は穏やかに目を細めながら、4人を迎えた。

「さて、今日は講義の続きを聞きに来たんだね?」

ヌーラが一歩前に出て、小さくうなずいた。
「はい。自分たちで話してみたんですけど……どうしてもよくわからなくて」

「それで、自分の不安に名前をつける形でまとめてきました」
と、ペトラがそっとレポート用紙を差し出す。


教授はゆっくりとそれを手に取ると、微笑みながら言った。

「いいね……それぞれに不安の名前をつけたんだね。

“不安に名前をつける”っていうのは、とても大切なことなんだよ。
では、一人ずつ見ていこうか」


◆ ヌーラ(雲)の不安

教授は、ヌーラのレポートに目を通すと、こう言った。

「ヌーラさん。あなたの不安のクセは、“評価依存型”です。
他人の目を通して、自分の存在の価値を確認しようとするパターンですね」


ヌーラが小さくうなずく。

「でもそれは、他人の光に当たってるだけで、自分の明かりを見ていない状態。
周囲に合わせているうちは“平和”かもしれないけど、それは“安心”とは違うんです」

「じゃあ、どうすれば、自分の明かりを見つけられますか?」

「まずは、小さくても“自分で選ぶ”という感覚を積み重ねていくこと。
『私は何が好きか』『今日はどっちを選びたいか』
その小さな選択が、“自分という輪郭”を形づくります。
安心は、その輪郭の中にしか宿らないんですよ」


◆ カエル(火)の不安

カエルがやや緊張した様子でレポートを手渡すと、教授はやさしく目を細めた。

「カエルくん。君の不安は、“行動依存型”だね。
動いていることで自分の価値を感じ、静止することに耐えられない。
これは、“止まったときに自分が消えてしまうような恐れ”と関係しています」


「……はい。止まると、存在が曖昧になる気がして」

「でもね、君が本当に欲しいのは“動いている自分”ではなく、
“止まっていても、大丈夫な自分”ではないかな?」

「……そうかもしれないです」

「まずは、静かな時間に“自分を感じる練習”から。
何もしない時間を、恐れずに持つこと。
それが、“内側に安心を根づかせる力”になりますよ」


◆ ヴェント(風)の不安

ヴェントのレポートに目を通しながら、教授は少し表情を曇らせた。

「ヴェントさんの不安は、“回避依存型”です。
他者との関係性によって揺さぶられることを恐れて、距離を保ちます。
でもそれは、安心のように見えて、実は“孤立”を深めてしまう危険もあります」


「私は人付き合いが苦手なんです。だから、距離を保ってる方が楽で」

「それは“自己防衛の知恵”でもあるから、責めなくていいんです。
でもね、本当の安心は、“人と繋がっても大丈夫だと思えること”でもあるんです」

「繋がるのが怖くて……でも、繋がりたい気持ちも、あるんです」

「その気持ちを忘れずに。安心は、“共にいても疲れない関係”の中で育まれます。
まずは、誰かひとりと、深く正直な関係を築くところから始めてみましょう」


◆ ペトラ(石)の不安

ペトラが、ページの角が少し折れたノートを差し出すと、教授は丁寧に開いた。
何度も何度も見直したのだろう…

「ペトラさん。あなたの不安は、“自己否定型”ですね。
常に自分を評価し続け、“ちゃんとできているか”を確認しないと安心できない。
これは、幼いころから“条件つきの価値”の中で生きてきた人に多く見られる傾向です」


「うまくいかなかったら、自分には価値がないって、どこかで思ってしまうんです」

「でも、本当は、どんな自分でも、ただそこに“いていい”んです。
“ちゃんとできていない自分”でも、居場所があっていい。
それを少しずつ、自分に許していきましょう」


「どうやって……?」

「今日一日を“責めないで終える”だけで、もう大きな一歩です。
まずは、完璧じゃなくても、疲れてても、自分に“お疲れさま”って言える夜を増やしてみてください」


4人はそれぞれつけた『不安の名前』教授が心理学的に解説してされたおかげで、自分の不安にどう向き合えばいいかの方向も見えた気がした。
教授は最後にこう告げた。

「不安は、悪者ではありません。
それは、あなたが“安心したい”と願っているサインです。
そして安心とは、どこかにあるものではなく、
自分との関係の中に、ゆっくりと育てていくものなのです」

IMG_4858


彼らはそっと頭を下げて部屋を後にした。
空気はひんやりと冷たかったけれど、心の奥には、何かあたたかなものが灯っていた。

第3幕:再び4人で〜学びのシェア〜

夜のキャンパスには、昼間の喧騒が嘘のように静けさが広がっていた。
講義棟の前のベンチに、4人は自然と集まっていた。

それぞれの手には、教授のもとで受け取ったメモと、自分のノートがある。

「……どうだった?」
最初に口を開いたのはヌーラだった。

カエルは少し考えるように空を見上げたあと、答えた。

「“動いてないと、自分の価値がないって思ってる”って、言われたよ。
それが“行動依存型”っていうクセなんだって」

「うん、聞いてて思ったけど……」とヴェントがゆっくり言葉を紡ぐ。
「私も、人との距離を取ることで安心しようとしてる。
でもそれって、“安心”っていうより、“孤立”を選んでただけかもって……言われた」

ヌーラはうなずきながら、自分のメモを見つめた。

「私は、“評価依存型”。
人から見てどう思われるかばかり気にしてて。
自分の“安心”を、人に委ねてたって、気づかされた」

ペトラは、そっと自分のノートを胸元に抱えた。

「私は、“自己否定型”。
ちゃんとしてないと、ダメだって思いすぎて……
“失敗しても、価値はある”っていう言葉が、まだうまく信じられないけど、でも、聞けてよかった」

風が吹いた。紙が一枚、ベンチから滑り落ちて地面をかすめる。
ヌーラが拾い上げながら、ぽつりとつぶやいた。

「……それぞれの不安、全部ちがうけど、
でも、安心したいっていう“願い”は同じだったね」

「たしかに」カエルが笑う。
「なんでこんなに不安になるんだろうって、ずっと思ってたけど……
不安って、“安心したいっていう気持ち”の裏返しなんだって、教授が言ってたよな」

「安心は、どこかにあるものじゃなくて、自分の中に育てていくもの」
ヴェントが、その言葉を噛みしめるように繰り返す。

「じゃあ、私たちさ、これからも不安になることあるかもしれないけど……
それでも、ちゃんと歩いていけるってことかな」

ペトラの声は、少しだけ震えていたけれど、しっかりと届いた。

カエルが立ち上がって、伸びをした。

「教授も言ってたよ。“安心って、静かに育つ植物みたいなもんだ”って。
だから、焦らなくていいって」

ヌーラが小さく笑った。
「たまに水を忘れても、枯れないかな」

「ちょっとくらい忘れても、また水あげればいいんじゃない?」
ヴェントの声に、4人の緊張が一気にほぐれた様子だった。


IMG_4861

エピローグ:読者のみなさんへ

もしかしたら、あなたにも“なんらかの不安があるかもしれませんね。
でも、それは決してあなたが弱いからではなく、
「安心したい」という、まっすぐな願いがあるからこそ生まれるものです。


不安を責めるのではなく、まずは気づいてみてください。
「私は、何に怯えているんだろう?」
「何を守ろうとしているんだろう?」

そんな問いが、あなたの中にある“安心の種”を見つけるヒントになるかもしれません。


そして、自分だけの「安心の育て方」を、少しずつ見つけていきましょう。
ヌーラたちのように、完璧じゃなくていい。
迷っても、不安になっても、またそこから歩き出せばいいのです。

IMG_4847

登場人物の名前について

物語に登場する4人の学生、ヌーラ・カエル・ヴェント・ペトラには、それぞれ自然を象徴する名前がつけられています。


ただしこれは、厳密な命名や類型ではなく、イメージの広がりを楽しむための名付けです。

語源があったり、イメージだけであったり、物語を楽しむための名付けです。

ヌーラ(Nura)= 雲(cloud)

語源イメージ:アラビア語の「nūr(光)」や、スペイン語の「nube(雲)」などから着想。
他者に溶け込みやすく、形を変えて存在する「雲のような」感性。
でも、どこか“自分”を見失いやすい柔らかさも。

カエル(Kael)= 火(fire)

語源イメージ:ゲール語・ケルト語の男性名「Kael」「Cael(戦士の意)」や、炎を象徴する名から着想。
エネルギーと衝動を持ち、止まると不安になる「燃え続ける存在」。
行動することでしか安心を感じられない一面も。

ヴェント(Vento)= 風(wind)

語源イメージ:イタリア語・ポルトガル語の「vento(風)」より。
常に動いていて、触れられないような軽やかさ。
他者との距離を保つことで、安心を保とうとする傾向。

ペトラ(Petra)= 石(stone)

語源イメージ:ギリシャ語の「Petros/Petra(岩)」より。
内面に厳しさをもち、完璧を目指す「揺るがぬ存在」。
でもその強さは、自己否定の裏返しでもあるかもしれない。

意図的な“あいまいさ”について

この名付けには、「名前を借りて、感情や不安のかたちを象徴として語る」意図があります。
実在する誰かではなく、“どこかにいるかもしれない私たち”として感じてもらうため、名前の意味は確定せず、ゆらぎをもったまま提示されています。

だからこそ、自分に似た部分を見つけたり、まったく違うと感じたり、自由に受け取っていいのです。

【カウンセリング予約方法】


IMG_4725


>>三好成子のWEB予約ページは こちらです。

【電話カウンセリング】

シンプルな線画10

・初回:無料(45分)
お客様よりカウンセラーにお電話いただきます。
通話料はご負担ください。

【オンライン通話カウンセリング】

シンプルな線画4

電話カウンセリングをZOOM(音声のみ)でもご利用いただけます。

ご予約時に「ZOOM希望」とお伝えください。


【大阪ルーム対面カウンセリング】

シンプルな線画5

カウンセリングルームで直接お会いするカウンセリングです。

会場はこちら → 大阪(江坂)

【オンライン面談カウンセリング】

シンプルな線画11

ビデオ通話でお顔を見ながら行います。
面談ルームを利用する日には「大阪オンライン面談」メニューになります。
詳しい日程はブログのスケジュールページでご確認ください。(毎月15日更新)

※初回無料カウンセリングは予約センターへのお電話で承っています。

【カウンセリング予約センター】

TEL:06-6190-5131

受付時間:12:00〜20:30(月曜定休・祝日の場合は翌日代休)



◆私あてのメッセージは、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

qrcode_coubic.com
↑web予約ページへ
三好成子のYouTubeサイトです。